私が実際に書いた14ページを開きながら、
何を、どの順番で埋めていくのかをお話しします。
お金を借りるには事業計画書が要る、と言われました。
でも……何を書いたらいいのか、まったく分からなくて。フォーマットをダウンロードして、白いまま3日たちました。
その3日、私にもありました。よく分かります。
私は結局、14ページ書きました。2ヶ月かかりましたし、正直しんどかったです。
でも書き終わって気づいたことがあって。これ、銀行のために書く書類じゃないんですね。
えっ、違うんですか?
提出はします。でも中身は、自分の頭を整理するための道具でした。
「誰に、何を、いくらで、どうやって届けるか」を全部決めきると、開業の手順が勝手に見えてくるんです。
この記事の内容
提出先はあります。融資を申し込むときに出します。だから「審査に通るために書くもの」と思われがちです。
でも、書いてみて分かったのは順番が逆ということでした。
自分のために書くと、結果として通る書類になります。
逆に、通すために書くと、面談で答えられなくなります。
聞かれるのは書いた内容ではなく、「なぜそう考えたか」だからです。
面談で数字を聞かれたとき、自分で積み上げた数字なら説明できます。どこかから持ってきた数字だと、そこで止まります。止まるかどうかは、書いているときにもう決まっています。
私の場合、こういう構成になりました。使う書式によって並びは変わりますが、聞かれることはだいたい同じです。
14ページ……。1ページ目から順に埋めていけばいいですか?
そこがいちばん大事なところです。
1ページ目から書くと、たいてい途中で止まります。
創業動機は、いちばん書きやすそうに見えて、じつはいちばん最後に書くページなんです。全部決まってからでないと、まとまった言葉になりません。
私が実際に進めた順番は、こうでした。
売上を先に決めないでください。「月◯◯万円ほしいから、そのために何人集める」と逆算すると、その客数の根拠が説明できなくなります。売上は、決めるものではなく出てくるものです。
順番はわかりました。じゃあ、Aから書きはじめればいいんですね。
ひとつだけ、その前に決めておくことがあります。
個人事業ではじめるか、法人ではじめるかです。
えっ、そこからなんですね……。
ここが決まらないと、計画書の表紙が書けません。「屋号」なのか「商号」なのかで、書く名前が変わるからです。融資の申込書も、物件の契約名義も同じです。
開業までの手続きが軽くて済みます。あとから法人にすることもできます。まず1名で回してみる段階なら、身軽なほうが動きやすいです。
対外的な信用は得やすくなります。ただし開ける前にやることが増えます。登記、印鑑、口座開設。ここに時間とお金がかかります。
私は法人で開きました。
でも正直に言うと、1名ではじめるなら、まずは個人からでよかったと思っています。開ける前にやることが、思っていたより増えました。
もちろん、人を雇う前提だったので法人にした理由はあります。ただ「とりあえず法人」ではなかったかと、いまは思います。
この判断は、税理士さんと一緒に決めてください。私も相談して決めました。
「まだ何も決まっていないから相談できない」と思わなくて大丈夫です。むしろ決まっていない段階のほうが、選べる幅があります。開業の何ヶ月も前から相談できます。
いちばん最初に決めるのがここです。ここが決まらないと、価格も、内装も、集客も決められません。
ターゲットって、「20代〜40代の女性」みたいな感じでいいんですか?
そこで止めないでください。それだと、この街にいる女性のほとんどが入ってしまいます。
私が書いたのは、年代のあとに「なぜ、その人が、うちを選ぶのか」まででした。
年代、住まいか職場か、美容にどれくらい使う人か。「誰かのためではなく、自分のために美容をしている人」のように、動機まで書けると輪郭が出ます。
仕上がりだけではありません。静かに過ごしたい、隣を気にしたくない、話しかけられたくない。ここが内装と接客に直結します。
何と検索して、どこを見て決めるのか。「恵比寿 まつ毛 個室」のような実際の言葉で書きます。これがそのまま集客の設計図になります。
ここが商圏の話につながります。想像ではなく、住んでいる人・働いている人の実感や、街を歩いた印象まで書きました。
コンセプトのほうは、私は一文で書きました。長い説明ではなく、お店を言い表す一文です。この一文が、あとで内装・メニュー名・写真の選び方まで全部を決めてくれます。
ここは表を1枚つくります。列は4つです。
この「売上シェア」の列がポイントです。全メニューを合計して100%になるように置きます。そして、価格×シェアを足し合わせると、客単価が計算で出てきます。
私はこれで、客単価が1万円台の前半になりました。
大事なのは金額そのものではなくて、「なぜその単価になるのか」を自分で説明できる状態になることです。
ここを「たぶん8,000円くらい」で置いてしまうと、そのあとの数字が全部あやふやになります。
もうひとつ。シェアを置いていくと、「これは何%を狙うメニューなのか」がはっきりします。看板にするもの、単価を上げるもの、入口になるもの。表を埋めるだけで、メニュー構成の意図が自分で見えてきます。
競合って、近くのお店を何件か調べればいいですか?
件数を数えるだけで終わらせないでください。
私も最初に数えました。マップで100件以上、掲載サイトでは300件以上ありました。
でもその全部と戦うわけではありません。ここで決めるのは、「そのうちのどこと比べられるか」です。
私は、単価帯で線を引きました。半個室で落ち着いた時間を出すお店なので、安さで選ばれるお店とは並びません。同じくらいの価格帯のお店が競合になります。
そのうえで、3店だけ選んで、こう書きました。
他店を悪く書かないでください。読む人はその業界を見慣れています。悪く書いた瞬間に、書いた人の見え方が下がります。違いだけを書けば十分です。
ここが、事業計画書でいちばん差が出るページだと思っています。
集客の手段ごとに、月に何人来るかを積み上げます。
そして1行ずつ、「なぜその人数なのか」の根拠を隣に書きます。
私が書いた行は、こういうものでした。
指名の総数 × 声をかけられる割合 ÷ 来店の周期。掛け算の式そのものを書きます。「たぶん来てくれる」では根拠になりません。
どのプランで、どんな運用をするか。エリア担当者と打ち合わせ済みなら、それも書きます。
配る枚数 × 反応率。反応率は控えめに置きました。大きく見せるより、外さないほうが大事です。
それぞれ何人を見込むか。ここも根拠を1行ずつ。
この積み上げで、私は計画上の来店数を出しました。そのとおりになったかどうかは、また別の話です。でも、根拠を書いてあったので、面談では説明できました。
ここでひとつ、正直に言っておきますね。
この数字は、当たらなくていいんです。大事なのは、外れたときにどこが外れたのかが分かる形になっていること。
ひとつの数字で「月◯◯人」と書いてあると、外れたときに打ち手がありません。手段ごとに分けてあれば、どこを増やせばいいかが見えます。
ここまで来ると、もう計算するだけです。
B(客単価)× D(客数)= 売上
先に売上を決めて、そこから客数を割り戻すと、
その客数をどう集めるのかが説明できなくなります。
そして収益シミュレーションは、年間の合計ではなく月ごとに引いてください。開業してすぐは、当然ながら少ないところから始まります。何月にいちばん苦しくなるのかを、開ける前に知っておくためのページです。
ここは表が3種類あります。
誰が、いつ入って、いくらで、どれだけ売上をつくる想定か。私は1人ずつ「開業時/2年後」のキャリアと報酬を書きました。人件費は、いちばん重い固定費です。
何にいくらかかって、自己資金と借入をどう組み合わせるか。この2つの表は、合計が一致していないと必ず聞かれます。詳しくは別の記事に書きました。
提出先の書式は、この2分割になっていることが多いです。保証金や内装は設備、礼金や前払家賃は運転。迷ったら聞いてください。聞いて怒られる場所ではありません。
創業動機、理念、これまでの経験。ここを最後に回してください。
いちばん書きたいところなのに、最後なんですね。
だからこそ、なんです。
先に書くと、気持ちだけの文章になります。「やりたいです」「頑張ります」で終わってしまう。
でも全部決めたあとに書くと、「だからこの店をやります」という文章になります。同じことを書いていても、読んだときの説得力がまるで違います。
私はここに、何をやってきたかを具体的に書きました。業界にいた年数、どんな仕事をしてきたか、そこで何を学んだか。そして、開業のために実際に準備してきたことも。
「やりたい」ではなく「もう動いている」。ここが伝わると、読む人の見方が変わります。
「月◯◯万円ほしい」から逆算すると、客数の根拠がなくなります。単価 → 客数 → 売上の順でしか、説明できる数字にはなりません。
件数は調べたことの証明にはなりますが、戦略にはなりません。そのうちのどこと比べられるか、そこで何を選ばれる理由にするか。決めるところまでが競合のページです。
創業動機は最後です。先に書くと、決まっていないことが多すぎて何度も書き直すことになります。私も、最初の1週間をここで溶かしました。
何ページくらい書けばいいですか?
枚数に決まりはありません。私は14ページになりましたが、厚さより「聞かれたことに答えられるか」です。埋まっていないページがあるほうが気になります。
手書きでもいいですか?
読めれば問題ないと思います。ただ、数字の表だけは表計算ソフトで作ることをおすすめします。項目を足すたびに合計が動くので、手計算だとほぼずれます。
どれくらい時間がかかりますか?
私は2ヶ月かけました。毎日ではなく、決まらないところで止まっては考える、の繰り返しです。止まる時間も含めて、この作業の一部だと思っています。
数字が計画どおりにならなかったら、まずいですか?
計画は計画です。大事なのは、外れたときにどこが外れたか分かる形になっていること。手段ごとに分けて書いてあれば、次の打ち手が見えます。
誰かに見てもらったほうがいいですか?
一度、自分以外の目を通したほうがいいと思います。自分だけで書くと、前提を書き忘れます。自分にとって当たり前のことほど、抜けます。
個人ではじめて、あとから法人にできますか?
できます。実際にそうされる方は多いです。ただ、そのときは手続きが必要になるので、切り替えるタイミングも含めて税理士さんに相談してください。「あとから変えられる」は、最初を身軽にしていい理由のひとつだと思っています。
まだ物件が決まっていないのに書けますか?
書けます。というより、物件が決まる前に書くほうが正しい順番です。家賃の上限も、必要な広さも、この計画から出てくるからです。
1. 書きはじめる前に、個人か法人かを決める(表紙が書けません)
2. 事業計画書は自分のための道具。結果として通る書類になります
3. 1ページ目から書かない。創業動機は最後
4. 順番は 誰に → いくらで → どこで → どう集めるか → 売上
5. 売上は決めるものではなく、出てくるもの
6. 客数は手段ごとに分けて、根拠を1行ずつ
7. 競合は件数ではなく、どこと比べられるかを決めるページ
白いままの3日間が、もったいなかったです。
順番が分かっただけで、書けそうな気がしてきました。
それが、この記事でいちばん伝えたかったことです。
止まるのは、書く力がないからではなくて順番のせいのことが多いんです。
次は、この計画のいちばん重い費目である物件の話を書きますね。
この記事は、私自身が2025年に恵比寿で1店舗を開業した経験と、そのときに作成した事業計画書をもとに書いています。書式や求められる項目は提出先によって異なります。融資の可否や条件については金融機関に、税務・労務の手続きについては税理士・社会保険労務士にご相談ください。
