開業したいと思っています。まず、何から始めればいいですか。
コンセプトでも、物件でもありません。
ご自身の、お金まわりの確認です。滞納がないか、通帳はどうなっているか。
……いきなり、そこですか。
いきなり、そこです。
私が広告会社やコンサルタントの仕事をしていたときに、お金まわりの身辺確認が大切だと教わりました。それ以来、この順番でやっています。
そして自分が借りるときに、本当にそのとおりだったと分かりました。面談で、いちばん聞かれたのがここです。
この記事の内容
先に、正直に書いておきます。
私は開業のとき、チェックリストを使っていません。事業計画書に沿って進めました。
このチェックリストは、この連載を書きながら「あったら便利だったな」と思って作ったものです。12のブロックに分かれていて、全部で78項目あります。
その1ブロック目が、これです。
1ブロック目です。太字にした6番が、いちばん手間取るところでした。理由は後半で書きます。
見ていただきたいのは、この8項目が「事業計画書」より前にあるということです。
コンセプトを考えるより前。物件を探すより前。ここが1番です。
普通の開業の本だと、コンセプトから始まりますよね。
そうですね。でも、順番を逆にすると、いちばん困ります。
理由は、この8項目だけ性質が違うからです。
コンセプトは、1日あれば決まります。物件は探せば見つかります。内装も器具も、お金があれば進みます。どれも「やれば終わる」ものです。
通帳に「毎月コツコツ貯めた跡」を作るには、毎月コツコツ貯めるしかありません。支払いの遅れの記録も、消えるのを待つしかない。近道がありません。
だから、いちばん最初なんです。ここだけは、あとから巻き返せません。
逆に言えば、ここさえ早く始めておけば、あとは何とでもなります。コンセプトが決まっていなくても、物件が見つかっていなくても、貯めることは今日から始められます。
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
通帳って、そんなに見られるものなんですか?
見られます。というより、コピーを渡します。
提出書類に入っているので、渡さないという選択肢がありません。
そして、面談でもここをかなり聞かれました。
私は事業計画書を14ページ書きました。競合も292件調べました。商圏も人口まで出しました。それでも、いちばん時間を取られたのは自己資金の話でした。
事業計画書は、これから何をするかの書類です。
通帳は、これまで何をしてきたかの記録です。
そして後者のほうが、疑いようがありません。
計画書は、いくらでも立派に書けます。でも通帳は書けません。2年前の自分が何をしていたかが、そのまま並んでいます。
創業動機の記事で「自己資金は金額より貯め方が見られる」と書きました。あれは比喩ではなく、文字どおりの意味です。通帳のコピーを渡すので、貯め方が全部見えます。
制度の話をひとつ。私が借りたときと、いま申し込む方とでは、制度の名前も条件も変わっている可能性があります。「自己資金がいくら必要」という明確な要件が定められているわけではないとも言われます。
ただ、要件に書かれていないことと、聞かれないことは別です。私は聞かれました。最新の条件は、必ず金融機関にご確認ください。
うちの場合を書きます。
2022年10月から夫婦2人三脚で「夢貯金」として、コツコツ自己資金400万円以上を貯めてきました。
開業は2025年5月です。2年半、貯め続けました。
2年半……。そんなに前から動いていたんですね。
物件も決まっていませんし、店の名前も決まっていません。
決まっていたのは「いつか店をやる」ということだけです。それでも、貯めることは始められました。
「夢貯金」という言い方は、気取ったものではありません。夫婦2人でそう呼んでいただけです。ただ、この名前をつけたことには意味がありました。
名前をつけると、手をつけにくくなります。「生活費が足りないから、今月は少なめに」がやりにくい。それが2年半続いた理由だと思っています。
そして、この2年半がそのまま通帳に残りました。毎月同じ日に、同じ額が入っている。面談で見せたのは、それだけです。
8項目の中で、いちばん多くの方がつまずくのがここだと思っています。
自己資金を貯めた実績が、通帳で確認できるか
お金があるかどうかの話ではありません。「どう貯めたか」が残っているかどうかの話です。
毎月、決まった日に、決まった額が入っている。2年前から並んでいる。説明することが、ほとんどありません。
金額は同じでも、直前にまとまった額が1回入っただけ。あるいは他の口座から移しただけ。説明が必要になります。
お金の出どころに問題がなくても、「説明が必要になる」こと自体が手間です。そして、この手間はあとから消せません。
だからもし、いま「いつか開業したい」と思っているだけの段階でも——口座を1つ決めて、毎月同じ日に入れる。それだけ今日から始めておいてください。金額は小さくても構いません。並びが作られていくことのほうが大事です。
ここは、正直に書きます。
もし、8項目のどれかに引っかかったら……どうすればいいですか。
そこは、私の専門外です。
「こうすれば大丈夫です」とは書けません。書いたら無責任になります。
私は税理士でも、金融の専門家でもありません。ここで軽々に方法を書くのは、いちばん良くないことだと思っています。
そのうえで、これだけは言えます。
確認しないまま進むのが、いちばん良くありません。
引っかかっているかどうかも分からないまま物件を契約して、あとで融資が出ない——これがいちばん重い失敗です。
確認先は、内容によって分かれます。
税務署、自治体の納税の窓口。納税証明書は自分で取れます。
自分の情報は、本人が開示を請求して確認できます。申込み方法や費用は各機関のサイトをご確認ください。
まず借入先へ。そのうえで、融資を相談する金融機関に正直に話してください。
金融機関の窓口、商工会、認定支援機関など。相談は、たいてい無料です。
ひとりで考えていると、「大丈夫なはず」と「無理かもしれない」を行ったり来たりするだけで答えが出ません。窓口で聞けば、10分で分かることがあります。
答えは決まっています。
開業を思い立った日です。
物件を探し始める前でも、事業計画書を書き始める前でもありません。「いつか店をやりたい」と思った、その日です。
理由は、さっきと同じです。
ここだけ、時間がかかるからです。早く知れば知るほど、打てる手が増えます。
うちは2022年10月から貯め始めて、2025年5月に開きました。2年半です。もし開業の半年前にこの8項目を確認していたら、間に合っていませんでした。
最後の「管理美容師の確保」だけ、他の7つと毛色が違います。お金の話ではなく、資格の話だからです。
渋谷区の手引きでは、理容師・美容師の従業者が2名以上の場合に管理美容師が必要とされています。1人で開くなら要りません。
ただ、これも早めに確認しておくべき項目です。講習を受けて資格を取る必要があるので、スタッフを入れると決めてから動くと間に合わないことがあります。くわしくは手続きの記事に書きました。
自治体によって扱いが違うことがあります。必ず、お店を出す地域の保健所にご確認ください。
自己資金は、いくら必要ですか?
明確な要件が定められているわけではない、とも言われます。よく言われる目安は開業にかかるお金の5分の1程度です。ただ、制度も条件も変わります。最新の情報は必ず金融機関にご確認ください。
通帳は、本当に提出するんですか?
します。提出書類に入っているので、渡さないという選択肢がありません。私の場合、面談でもここをかなり聞かれました。
親から資金を出してもらう場合は、どうなりますか?
出どころの説明が必要になります。それ自体が悪いわけではありません。ただ、毎月コツコツ貯めた通帳と比べると、説明の手間は増えます。扱いは金融機関にご確認ください。
貯め始めるのは、いつからがいいですか?
開業を思い立った日です。物件も店名も決まっていなくて構いません。うちは2年半かけました。口座を1つ決めて、毎月同じ日に入れる。金額より、並びを作ることのほうが大事です。
8項目のどれかに引っかかっていたら、開業は無理ですか?
私には判断できません。専門外なので、ここで「大丈夫」とも「無理」とも書けません。ただ、確認しないまま進むのがいちばん良くないとは言えます。税金なら税務署、信用情報なら各機関、借入なら借入先。先に聞いてください。
管理美容師は、1人で開くときも必要ですか?
渋谷区の手引きでは「理・美容師の従業者が2名以上の場合」とされています。1人なら要りません。ただし自治体によって扱いが違うことがあるので、所轄の保健所にご確認ください。
この8項目は、どこで手に入りますか?
私がこの連載を書きながら作ったチェックリストの、1ブロック目です。全部で12ブロック・78項目あります。この記事の8つは、そのまま書き写してお使いください。
1. 開業準備の1番目は、コンセプトでも物件でもなくお金まわりの身辺確認
2. 理由は、ここだけ時間でしか解決しないから。あとから巻き返せません
3. 通帳のコピーは提出します。渡さないという選択肢がありません
4. 面談でいちばん聞かれたのが、自己資金の話でした
5. 計画書は「これから」の書類、通帳は「これまで」の記録。後者は書けません
6. 8つでいちばん手間取るのは6番(貯めた実績が通帳で確認できるか)
7. 引っかかったときの対処は専門の窓口へ。ただし確認しないまま進まない
8. 確認するのは開業を思い立った日。口座を決めて、毎月同じ日に入れる
今日から口座を作ります。金額は小さいですけど。
それでいいと思います。並びが作られていくことのほうが大事なので。
うちも、始めた日には物件も店名も決まっていませんでした。
次は、その資金をどう組み立てるかの話になります。
この記事は、私自身が2024年から2025年にかけて恵比寿で1店舗を開業した経験と、その経験をもとに作った営業準備チェックリストをもとに書いています。私は税理士・金融の専門家ではありません。融資の条件・審査・可否については金融機関に、税金については税務署に、信用情報については各信用情報機関に、資格については所轄の保健所にご確認ください。制度や要件は変わります。
