創業動機の欄で、また止まっています。
「まつげが好きだから」しか出てきません。これじゃダメですよね。
ダメというより、そこは動機を書く欄ではないんです。
書くのは「なぜ、この人ならできるのか」の答えです。だから、いちばん最後に書きます。
最後、ですか。いちばん書きたいところなのに。
だからこそ、です。私も最初に書こうとして、1週間を溶かしました。
今日は、うちが実際に何を書いたかを開きながらお話しします。そして最後に、いちばん厳しいことも書きます。
この記事の内容
理由は単純です。先に書くと、気持ちだけの文章になるからです。
「やりたいです」「頑張ります」で終わります。まだ何も決まっていないので、それ以上書きようがありません。
「だからこの店をやります」になります。同じことを書いていても、読んだときの説得力がまるで違います。
私は最初、1ページ目から順に書こうとして、最初の1週間をここで溶かしました。
書けなかった理由は、いま思うとはっきりしています。「なぜこの店をやるのか」は、店が決まっていないと書けないんです。誰に、何を、いくらで、どこで、どうやって集めるか。それが決まったあとで初めて、「だから私がやります」という一文になります。
順番については親記事に書きました。この記事は、その最後の1ページの中身の話です。
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことかもしれません。
「創業動機」と聞くと、作文のように思えます。白い枠に、自分の思いを書くのだと。私もそう思っていました。
でも実際に開いてみると、5つの具体的な質問が並んでいました。
1. 開業を決めたきっかけ
2. 開業に向けて準備した事
3. なぜこのエリア、物件にしたか
4. 開業を応援してくれている人・サポート内容
5. 開業してから成し遂げたいこと
並べてみてください。思いを聞かれているのは、1と5だけです。
2は準備、3は立地の判断、4は人の話。ほとんどが「事実」を聞かれています。
だから、白い枠を前に固まる必要はありません。
5つの質問に、順番に答えるだけです。
お使いのフォーマットによって欄の数や言い方は違いますが、聞かれていることは似ています。まずいくつの質問に分かれているかを数えてみてください。
うちが実際に書いた中身を、順に開いていきます。
ここには、経歴を書きました。
美容サロン専門のコンサルタントとして培った知識やノウハウを、実際のサロン経営に活かしたいと思い独立を決意。美容業界に携わって18年。美容室専売化粧品のメーカーの営業を4年。美容サロン専門の広告業を7年を経て、美容サロン専門のコンサルタントとして独立。
そのあとに、【美容業界への想い】という小見出しを立てて、少し長く書きました。
高校生のときに初めて美容室に行って、美容師さんがキラキラして見えたこと。手が器用ではないので、美容師を目指すのではなく美容業界で働きたいと思ったこと。大学の就活で業界最大手のメーカーを受けて、最終面接で落ちたこと。
卒業後は食品メーカーに入りましたが、やはり美容業界で働きたいという想いが日に日に強くなって転職しました。そこから美容業界一筋です。
落ちた話も、書いたんですか?
書きました。そのほうが、一本の線になるからです。
18年前から美容業界にいたかった人間が、遠回りして、いまここにいる。「思いつき」ではないことが、事実として伝わります。
そして最後を、この一文で締めています。
生涯の伴侶であるアイリストの妻と出会い、サロン経営をする覚悟が決まりました。
ここがいちばん長くなりました。そして、いま読み返していちばん大事だと思うのもここです。
私は自分の仕事そのものを、準備として書きました。
現在の事業で10社のクライアントと延べ年間500回の会議をしていることが、サロン開業に向けての大きな準備となっております。
毎年新店舗を出すクライアントもいて、開業するためには何をしたら良いか疑似体験ができているのは非常に大きなメリットであると思っています。
「疑似体験」。この言葉を使いました。
ここは、正直に書いておきたいことがあります。
疑似体験をさせてもらえていたのは、クライアントのおかげです。本当に感謝しています。
自分の力で身につけたことではありません。人のお店の開業に立ち会わせてもらい、人のお店の数字を一緒に見せてもらい、人のお店の採用を一緒にやらせてもらった。そこで学んだことを、自分の店に持ってきただけです。
求人についても同じことを書きました。クライアントの求人サイトを担当者と一緒に作らせてもらい、原稿からスカウトまで並走したこと。毎月3名前後の応募が来ているので、人材確保の疑似体験ができていると。
技術面は、妻が17年培ってきたノウハウをマニュアル化して、技術を統一することを書きました。
この欄で書くべきなのは、「これから何をするか」ではありません。「すでに何をやってきたか」です。「やりたい」ではなく「もう動いている」。ここが伝わると、読む人の見方が変わります。
恵比寿に住んで6年たっていること。恵比寿を利用している客層に、富裕層や大人の女性が多く、ターゲット層に合っていること。
そして、住んでいるからこそ書けることを足しました。日々どういう年代の方が多いのかを肌で感じていること。行きつけの飲食店には経営者の方も多く、世帯年収が高い層が多いという印象を受けていること。
この欄の数字の裏づけは、商圏調査のページで別に書いています。ここは「なぜ自分がこの街を選べるのか」を書く欄だと考えました。
これは、書けと言われるまで思いつかない欄でした。
1. 恵比寿の飲食店の経営者や店長と深いつながりがあり、互いの店にショップカードを置かせてもらう相互送客ができる
2. 助成金の活用にくわしい同僚がいるので、資金調達の面での支援が期待できる
3. クライアントの多くが多店舗展開をしているため、会議を通じて経営のノウハウを直接学べる環境がある
4. 共著を出したことのある業界の方から、支援が期待できる
書いてみて気づいたのは、「応援してくれる人」は「気持ちで応援してくれる人」ではないということでした。何をしてもらえるのかまで書く欄です。
親や友人が応援してくれている、では足りません。その人が、開業のどこを助けてくれるのか。そこまで書けると、この欄は強くなります。
ここだけは、思いを書いていい欄です。うちはこう書きました。
お客様に一生通い続けて頂けるお店。
スタッフが一生働き続けたいと思えるお店。を目指します。
そのあとに、それぞれ具体を足しています。
お客様に対しては、常連のお客様にしか受けられないサービス・メニューを用意して飽きさせないこと。LINEを活用して距離の近い店にすること。
スタッフに対しては、まつげ業界は稼げる業界だと思ってもらえる給与体系と、有給休暇などの福利厚生。そしてゆくゆくはパート・業務委託・独立支援まで対応できる組織にしていくこと。
「一生通い続けて頂けるお店」は、ペルソナを決めたときの「生涯通い続けてほしいお客様を1名思い浮かべる」と、同じことを言っています。最後のページと、最初のページがつながりました。
準備の欄には、もうひとつ書いたことがあります。
2022年10月から夫婦2人三脚で「夢貯金」として、コツコツ自己資金400万円以上を貯めてきました。
開業したのは2025年5月です。2年半、貯め続けたことになります。
金額を書くのは、少し恥ずかしくないですか。
書いてください。ここは、いちばん見られるところです。
それも金額より、貯め方のほうが見られます。
親記事にも書きましたが、自己資金は「いくらあるか」より「どう貯めたか」で読まれます。コツコツ積み上げた跡が通帳で見えるかどうか。計画どおりに実行できる人かどうかとして読まれるからです。
一度にドンと入ったお金と、2年半かけて毎月積み上げたお金。同じ400万円でも、意味が違います。
だから「夢貯金」という言い方をそのまま書きました。気取った言葉ではありませんが、夫婦2人でそう呼んでいたので。
ここからは、厳しい話になります。
私にはコンサルの経験も、17年の技術もありません。
この欄に書けることが、何もない気がします。
思いや、やる気は大切です。それは前提として。
そのうえで言うと、裏づけされた数字がないと、公庫は動きません。
創業動機のページは、ここまでの全ページの数字とセットで読まれます。思いだけが立派でも、前のページの数字に根拠がなければ、通りません。
逆に言えば、数字さえ積み上がっていれば、創業動機は名文である必要がありません。やってきたことを、順番に書くだけで十分です。
そして、もうひとつ。
借金がある方は、なかなか難しい場合があります。私が見てきた範囲での話で、最終的な判断は金融機関がするものですが、ここを伏せたまま進めても、いずれ分かります。先に整理しておくことをおすすめします。
……そうなると、私はもう無理でしょうか。
そうは言っていません。
一人で悩む前に、誰かに相談してください。私のようなコンサルタントでも、商工会でも、金融機関の窓口でも構いません。
一人で考えていると、「無理かもしれない」と「大丈夫なはず」を行ったり来たりするだけで、答えが出ません。数字を一度誰かに見せると、10分で分かることがあります。
そして客数の記事にも書きましたが、いまは早いという結論も、立派な答えです。業務委託やフリーランスで働きながら、資金とお客様を貯めてから独立する。その順番のほうが向いている方は多いと思っています。
ここまで、事業計画書の書き方を14ページぶん書いてきました。最後に、それをひっくり返すようなことを書きます。
計画は、あくまで計画です。
大事なのは、そのあとでした。
書いた数字と、実際の数字を並べる。行を分けて書いておいたのは、このためです。どこが外れたかが分かります。
月末にまとめて見ても、もう終わっています。動いているうちに見るから、打ち手が出せます。
数字を自分だけで見ていると、都合よく読んでしまいます。外の目を、定期的に入れる。
売上ではなく、手元のお金の出入り。ここを見ていないと、黒字でも詰まります。
この4つを回すことが、経営そのものだと思っています。
会社にお金をいかに残すか。いかに増やしていくか。
経営の本質は、そこにあります。
事業計画書は、そのスタート地点に立つための書類です。書き上げたら終わりではなく、書き上げたら始まります。
この連載で、私はずっと同じことを書いてきました。
1. 順番を間違えないこと
2. 決めたことを、書いて残しておくこと
3. 外れたときに、どこが外れたか分かる形にしておくこと
ペルソナも、メニューも、商圏も、客数も、全部そうでした。当てるために書くのではありません。外れたときに動けるように書きます。
そして、事業計画書を書き上げても、まだ何も始まっていません。
独立開業は、あくまでスタートです。
開業してからが、楽しいし、大変です。
1年やってみて、これは本当にそのとおりでした。いちばん頭を使ったのは、開いたあとです。計画どおりにいかない月をどうするか、スタッフにどう説明するか、お金をどう残すか。
だから、いま計画書の前で止まっている方に言いたいのは、そこは通過点だということです。完璧に書き上げる必要はありません。説明できる状態にして、先へ進んでください。
創業動機は、どれくらいの長さで書けばいいですか?
長さより、欄ごとに答えているかです。うちは1ページに5つの欄がありました。1つずつ埋めていけば、結果として必要な長さになります。
「まつげが好きだから」しか出てきません。
それは1つ目の欄の話です。残りの4つは準備・立地・応援してくれる人・成し遂げたいことで、ほとんどが事実を聞かれています。思いを書く欄は、実はそんなに多くありません。
未経験です。「準備した事」に書けることがありません。
いまの仕事の中に、準備になっていることはありませんか。うちはクライアントの開業に立ち会わせてもらった経験を「疑似体験」として書きました。自分の力ではなく、人にさせてもらった経験でも構いません。誰の何を見てきたかを、具体的に書いてください。
昔の失敗や、落ちた話も書いていいんですか?
私は書きました。大学の就活で最終面接まで行って落ちた話です。そのほうが一本の線になります。思いつきで始めたのではないことが、事実として伝わります。
応援してくれる人の欄に、親や友人と書いてもいいですか?
書くなら、その人が開業のどこを助けてくれるのかまで書いてください。「応援してくれている」だけでは足りません。気持ちの欄ではなく、支援の中身を書く欄です。
自己資金の金額は、書かないほうがいいですか?
書いてください。ここはいちばん見られます。それも金額より、貯め方が見られます。うちは「2022年10月から夫婦2人三脚で、コツコツ400万円以上」と書きました。積み上げた跡が通帳で見えるかが読まれます。
思いは強いのですが、数字に自信がありません。
思いややる気は大切です。ただ、裏づけされた数字がないと、公庫は動きません。創業動機は、前のページの数字とセットで読まれます。一人で悩む前に、誰かに数字を見せてください。10分で分かることがあります。
1. 創業動機は、いちばん最後に書く。先に書くと気持ちだけの文章になります
2. ここに書くのは動機ではなく、「なぜこの人ならできるのか」の答え
3. 作文ではなく、5つの質問。思いを聞かれているのは、そのうち2つだけ
4. 準備の欄は「やりたい」ではなく「もう動いている」を書く
5. 人にさせてもらった経験も、準備です。疑似体験でも構いません
6. 応援してくれる人は、気持ちではなく支援の中身まで書く
7. 自己資金は金額より貯め方。積み上げた跡が見られます
8. 思いだけでは公庫は動かない。一人で悩む前に相談してください
9. 計画は計画でしかない。毎月のすり合わせ・日々の進捗・税理士との打ち合わせ・キャッシュフロー。会社にお金をいかに残すかが経営の本質です
5つの質問だと分かったら、急に書けそうになりました。
「もう動いている」を書く、というのも。
それでいいと思います。
そして、書き上げてもまだスタート地点です。開業してからが、楽しいし、大変です。
ここまでお付き合いいただいて、ありがとうございました。
この記事は、私自身が2024年から2025年にかけて恵比寿で1店舗を開業した経験と、そのときに作成した事業計画書をもとに書いています。書式や求められる項目は提出先によって異なります。融資の可否や条件については金融機関に、税務については税理士にご相談ください。
