事業計画書に「商圏」の欄があるんですが、何を書けばいいのか分かりません。
統計とか、調べないといけないんですよね……。
調べます。うちは半径500m・1km・2kmの3段で、女性の人口を年齢別に全部出しました。
そのページ、いま手元にあるので開きますね。半径500mに、40代の女性が1,659人。そういう書き方をしています。
……そこまでやらないとダメですか。
やったほうがいいです。ただ、正直に言っておきたいことが2つあります。
ひとつは、あれだけ調べたのに、恵比寿を選んだ決め手は数字ではなかったということ。
もうひとつは、統計をどれだけ見ても分からないことがあったということです。うちの場合は日曜日でした。
この記事の内容
手を動かす前に、順番の話をさせてください。
うちの開業前スケジュール表には、事業計画書の作業がこう並んでいます。
見ていただきたいのは2つです。
1つ目。ペルソナが先、商圏があと。誰に来てほしいかを決めてから、その人がこの街にいるかを調べています。逆にすると、街の統計を眺めながら「じゃあ誰を狙おうか」と考えることになって、まとまりません。
2つ目。商圏に2週間、競合に1ヶ月。商圏のほうが短いんです。
商圏のほうが、大変そうに聞こえるんですけど。
数字を集めるだけなので、実は早いんです。
それに商圏調査は「分析」というより「確認」でした。決めたペルソナが、この街にいるかどうか。それを確かめる作業です。
うちの事業計画書の商圏のページは、いちばん上にこう書いてあります。
調査地点:東京都渋谷区恵比寿西
1次エリア:半径0.5km(徒歩圏内)
2次エリア:半径1km(自転車圏内)
3次エリア:半径2km(バス・バイク圏内)
この3段に分けるのが、いちばん大事なところです。
「商圏」とひとことで言うと、どこまでを数えていいのか分からなくなります。でも「歩いて来られる範囲」「自転車で来られる範囲」「バイクや電車で来る範囲」と分けると、迷いません。
そしてまつげサロンで本命になるのは、1次エリア(徒歩圏内)です。4〜6週に一度、繰り返し来ていただく店だからです。遠いと、続きません。
女性の総人口(3段 + 参考)
3次エリア(半径2km)で、ほぼ渋谷区1つぶんの人口になります。広く取れば数字は大きくなりますが、その人たちが毎月通ってくれるわけではありません。
本命の1次エリア、つまり歩いて来られる範囲を、年齢別に見ます。
この街には、20代より40代のほうが多い。1.5倍です。
これは、あとで効いてきます。競合の話のところで、もう一度この数字に戻ります。
ここが、いま読み返していちばん「よく書いたな」と思うところです。
商圏のページには、人口の表の下に2行だけ、こういう欄があります。
計画書に置いた2つのターゲット人口
2次エリア(半径1km)では、コア5,136人/ビジネス7,710人。
コアとビジネスって、何が違うんですか?
数えている年代が違います。
コアターゲット=40代の女性。うちのペルソナの年代です。
ビジネスターゲット=20代から30代の女性。こちらのほうが数が多いです。
いちばん来てほしい人。店の作りも、メニューも、接客も、この人に向けて決めます。ペルソナはここから作りました。
商売として、数が動く人。コアより多い。実際にお店を回していくのは、こちらの人数です。
1,659人と2,715人。ビジネスターゲットのほうが1,000人以上多い。この差を、開業前に数字で見ていました。
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
ペルソナの記事で、私はこう書きました。
うちのペルソナは40歳です。
でも、クーポンサイトから来るお客様は20代が多いという印象です。
ペルソナと、実際に来る人はズレます。
あれを書いたとき、私は「開けてみて分かったこと」として書きました。
でも、商圏のページを開き直したら、そのズレは開業前から計画書に書いてあったんです。
計画書の商圏ページ開業前
コアターゲット(40代)1,659人
ビジネスターゲット(20〜30代)2,715人
開業してから実際
ペルソナ40歳のキャリアウーマン
クーポンサイトから来る方20代が多い
形が同じです。
「本命は40代。でも数が動くのは20〜30代」。これを開業前に2行で書いておいて、開業後に同じことが起きた。ズレたのではなく、書いたとおりになっただけでした。
ここが、商圏調査をやる意味だと思います。「その街に何人いるか」を知るためではありません。本命の人と、数が動く人が、別々にいるということを先に知るためです。この2つを分けて書いておくと、開業後に「思っていた人と違う」と慌てなくなります。
商圏のページには、人口以外の数字も並べています。全部は載せませんが、実際に見たのはこのあたりです。
1次エリアの主世帯は11,198世帯。そのうち共同住宅が9,708世帯で、9割近くがマンション・アパートです。持ち家4,449に対して民営の借家が5,967。借りて住んでいる人のほうが多い街だと分かります。
1次エリアの従業者数を業種別に見ました。卸売・小売5,426人/情報通信4,516人/宿泊・飲食3,031人/金融・保険2,446人。住む街であると同時に、働きに来る街だということです。
JR恵比寿駅は1日平均121,103人。JR東日本の駅で23位です。内訳は定期外63,552人・定期57,551人で、ほぼ半々。通勤で使う人と、遊びに来る人が同じくらいいます。
「生活関連サービス業・娯楽業」の従業者は1次エリアで955人。美容室もサロンもここに入ります。競合の実数を、店の数ではなく人の数で見るための欄です。
これらを全部足して、計画書の本文にはこう書きました。
商圏はオフィスとしても住宅地としても近年活性していて、近辺で働くターゲットや近辺に住むターゲットが多数存在する。
数字を並べたページの結論は、この2行だけです。数字は、この2行を言い切るために集めたものでした。
ここは正直に書きます。
ここまで調べて、恵比寿に決めたんですね。
それが、逆なんです。
恵比寿で店を持つのが夢でした。それと、いま住んでいるのも恵比寿です。
調べたのは、そのあとです。
もうひとつ、大人世代の方が多い街なのではないかという感覚がありました。これも数字を見る前の話です。
じつは、この「住んでいる」ことは計画書にも書いています。
また、事前リサーチとして、私たちが住んでいるので客層のイメージがつきやすいのは非常に好都合と言える。
じゃあ、統計を調べたのは何のためだったんですか?
やめる理由がないかを、確かめるためです。
選ぶ理由は、たいてい数字の外にあります。でもやめる理由は、数字にしか出てきません。
もし40代の女性が1次エリアに200人しかいなかったら、私は恵比寿をあきらめたと思います。夢でも、住んでいても、そこは動かせません。
1,659人いたから、進みました。商圏調査の役割は、それだけと言ってもいいくらいです。
「夢だから」で選ぶことを、私は否定しません。その気持ちがないと、開業の準備は続きません。ただ、夢の隣に数字を置いてください。数字が止めなければ進む、止めたらやめる。そう決めておくと、夢のほうも守れます。
ちなみに物件は、恵比寿駅から徒歩5分以内で探していました。これがなかなか見つからなくて、時間がかかっています。決まったのは、恵比寿駅から徒歩5分・代官山駅から徒歩2分のビルの5階でした。物件探しの話は物件の回に書いています。
競合調査そのものは集客の回に書いたので、ここでは結果だけ振り返ります。
ホットペッパービューティーで恵比寿292件を検索し、30〜40代を狙っている14店に絞りました。その14店のターゲット層は、こうでした。
14店が狙っていた年代
集客の回では、これを「恵比寿では40代が空いている」と読みました。
いま読み返すと、少し違うと思っています。
あれは恵比寿の話ではなく、ホットペッパービューティーの話だったのではないか、と。
あの媒体を使っているお客様自体が、20代から30代に寄っているんだと思います。だからお店の側も、そこに合わせて書いている。
ここで、さっきの人口と並べてみてください。
同じ恵比寿の、2つの数字向きが逆
街の人口(半径500m)40代 1,659人 > 20代 1,105人
40代のほうが1.5倍多い
掲載媒体の競合14店20代狙い 12店 / 40代狙い 0店
ほぼ全部が20代を向いている
街と、媒体が、逆を向いています。
これが、商圏調査と競合調査を両方やる理由だと思っています。片方だけだと、片方の絵しか見えません。
競合だけを見ていたら「20代を狙うのが正解らしい」と思ったはずです。商圏だけを見ていたら「40代が多いから40代でいこう」で終わって、その40代がどこから来るのかを考えないままだったはずです。
ミニモも調べました。恵比寿駅10分圏で177人。店ではなく、人の単位で数えています。
177人。多いですね。
多いです。ただ、この人数はあくまで10分以内の人ですし、正直なところ——
数えることより、動かすことのほうが大事です。
ミニモの検索結果は、初期表示が「おすすめ順」です。その順位を上げて、予約数を増やす。そこにしか結果は出ません。
177人という数字は、「ここは人が多い場所だ」と知るためのものです。知ったあと、順位を上げるために手を動かさなければ、数えた意味がありません。
商圏調査は、ここで止まりがちです。調べて、表を作って、事業計画書に貼って、終わり。調べた数字は、そのあと何をするかを決めるためにあります。1,659人と分かったなら、その1,659人にどう届くのか。177人いると分かったなら、その中で何位に入るのか。そこまでが1セットです。
最後に、誤算だったことを書きます。
あれだけ数字を並べたのに、開けてみるまで分からなかったことがありました。
1. 日曜日が、意外に弱い
2. 代官山駅は、特に日曜日の人通りが少ない
人口も、乗降客数も、従業者数も、全部「1日平均」や「総数」です。曜日の情報が、どこにも入っていません。
恵比寿駅1日121,103人。この数字は、月曜日も日曜日も同じ顔をしています。でも実際の街は、曜日でまったく違いました。
それは、どうやったら事前に分かるんですか?
行くしかありません。それも、曜日を変えて。
私は恵比寿に住んでいるので、街のことは分かっているつもりでした。それでも外しました。
住んでいる人でも外すということは、住んでいない街ならもっと外します。候補の物件の前に、平日の昼・平日の夜・土曜・日曜と、最低4回は立ってみてください。
それと、うちのように2つの駅から来られる立地の場合、駅ごとに人通りの曜日の癖が違います。両方の駅から歩いてみるのをおすすめします。
これから「この街で成立するか」を確かめる方へ、お伝えしたいことは2つです。
商圏は、地図の上の円ではありません。物件を見た数だけ、街の解像度が上がります。うちも恵比寿駅5分以内で探し続けて、なかなか見つかりませんでした。その時間が、結果的に街を見る時間になりました。
必ず、契約の前です。図面だけでは分からないことが現地にはあります。あとから分かると、契約したあとなので逃げられません。内装の回にも書きましたが、ここは譲らないでください。
2つ目は商圏の話ではないように見えるかもしれません。でも「この街で成立するか」は、最終的にその1件で決まります。街が良くても、その物件で成立しなければ意味がないからです。
そして、統計そのものについて。いま同じことをやるなら、数字を集める部分はもっと早く終わります。ただし——
人口・世帯・従業者数・乗降客数を集めて表にする作業。ここは調べ方さえ分かれば、時間はかかりません。
物件を見て回ること。曜日を変えて街に立つこと。ここは、いまも自分の足でしかできません。日曜日のことも、そうやってしか分かりませんでした。
商圏は、半径何kmで見ればいいですか?
うちは0.5km/1km/2kmの3段にしました。徒歩・自転車・バイクや電車、という分け方です。まつげサロンは4〜6週に一度、繰り返し来ていただく店なので、本命は1次エリア(徒歩圏内)だと考えています。
人口のデータは、どこで調べるんですか?
国が公開している統計が元になっています。事業計画書のフォーマットに商圏調査の欄がついていることも多いので、まずお使いのフォーマットを確認してみてください。無ければ、自治体の統計ページから拾えます。
ターゲット人口は、1つでいいですか?
2つ置くことをおすすめします。うちは「コアターゲット(40代)1,659人」と「ビジネスターゲット(20〜30代)2,715人」を分けて書きました。本命の人と、数が動く人は違います。開業後に「思っていた人と違う」と慌てないための2行です。
競合が全部20代を狙っていたら、20代を狙うべきですか?
その前に街の人口を見てください。うちの場合、掲載媒体の競合はほぼ全部20代を向いていましたが、街の人口は40代のほうが1.5倍多かったです。媒体の客層と、街の人口は別のものです。
その街に住んでいれば、商圏調査は要りませんか?
要ります。私は恵比寿に住んでいますが、日曜日の人通りを外しました。住んでいると「分かっているつもり」になるぶん、かえって危ないかもしれません。
数字が良くない街は、やめたほうがいいですか?
私は「やめる理由がないか」を確かめるために調べると考えています。選ぶ理由は数字の外にあることが多いですが、やめる理由は数字にしか出てきません。数字が止めなければ進む、止めたらやめる。そう決めておくと判断がぶれません。
街には何回行けばいいですか?
曜日を変えて、最低4回(平日の昼・平日の夜・土曜・日曜)は立ってみてください。統計に曜日は載っていません。複数の駅から来られる立地なら、駅ごとに歩いてみてください。
1. 順番はペルソナ → 商圏 → 競合。商圏は「分析」ではなく「確認」
2. エリアは徒歩・自転車・それ以上の3段で区切る。本命は徒歩圏内
3. ターゲット人口は2つ置く。コア(本命)とビジネス(数が動く)
4. その2つのズレは、開業後に必ず起きます。先に書いておけば慌てません
5. 街の人口と、媒体の客層は別のもの。両方を見ないと片方の絵しか見えません
6. 調べて終わりにしない。数えることより、動かすこと
7. 統計に曜日は載っていません。曜日を変えて、最低4回は街に立つ
8. 選ぶ理由は数字の外にあっていい。ただし、やめる理由は数字で確かめる
「夢だから」で選んでもいい、と言ってもらえて、少しほっとしました。
その隣に数字を置く、というのがすごく分かりやすいです。
数字が夢を否定することは、めったにありません。
でも数字を見ないまま進むと、あとで数字のほうから追いかけてきます。2週間でいいので、先に見ておいてください。
次は、この商圏から「何人来るか」を計算する話になります。集客プランの話です。
この記事は、私自身が2024年から2025年にかけて恵比寿で1店舗を開業した経験と、そのときに作成した事業計画書の商圏調査ページをもとに書いています。掲載している人口・世帯・従業者数・乗降客数は、計画書作成時点で参照した公的統計の数値です。最新の数値はご自身でご確認ください。
