等級・歩合・労働分配率。開業前に作った仕組みを、そのまま出します。
そして、私が一度やった計算間違いも書きます。
スタッフの給与って、いくらにすればいいんでしょうか。
相場を調べても、22万から26万くらいで、みんな同じで……。
そこは、たしかに同じになります。下限は相場で決まるからです。
開業前に決めるのは金額ではありません。決まり方です。
決まり方、というと?
いくら売ったら、いくらになるのか。それを式にしておくということです。
前の記事で、求人票に計算例を書いたと言いました。あれが書けたのは、先に式を作ってあったからです。
そして先に言っておきます。私はその式を、一度間違えていました。
1. 開業前に決めるのは金額ではなく、決まり方
2. 労働分配率を先に置くと、歩合のラインが逆算できる
3. 作った制度は、動かないことがあります。うちがそうでした
この記事の内容
前の記事で、同じエリアの求人を並べた話を書きました。そこで分かったことを、もう一度出します。
22万円〜26万円に固まっていました。
ここは相場です。動かせません。
40万円〜63万円までばらついていました。
ここは、その店の設計です。
下限で差はつきません。差がつくのは上限のほうです。そして上限は、歩合の設計で決まります。
うちが求人票に載せたのは、この形でした。
月給 25.0万円〜40.0万円
<技術売上600,000円の場合> 支給額261,530円
<技術売上700,000円の場合> 支給額277,530円
内訳(基本給+技術歩合+残業代)
この2行を書くために、先に必要だったものがあります。
順番は3 → 2 → 1です。先に「いくらまで払えるか」を決めて、そこから歩合を逆算しました。
まず、等級表をそのまま出します。金額は載せていません。売上の基準だけです。
この表は、ゼロから作ったものではありません。ホットペッパービューティーアカデミーが配布していた資料をもとに、うちの形に直しました。そして、いま見ると未完成です。そのあたりも、この記事の後半で正直に書きます。
ここは、聞かれると思っていました。
開業のとき、社員は1〜2名ですよね。マネージャーも取締役も、当分いないのでは……。
いません。いまもいません。
それでも8段作ったのは、起業したときに「5年で10億」と掲げたからです。
求人票にも、そう書きました。ビジョンの欄です。
5年で10億 挑戦・成長し続ける
多店舗展開に挑戦し、毎年成長を続けることで、より多くのお客様・スタッフを幸せにします。
まつ毛業界の職業地位を向上させ、業界全体を活性化させる。
10億と言っておいて、等級が3段しかなかったら、嘘になります。
独立支援(FC加盟)コースと取締役コースを入れたのも同じ理由です。この会社に入ったら、どこまで行けるのか。それを示せないなら、大きいことは言わないほうがいい。
いま、その10億はどうなっていますか。
現実は甘くないと痛感しています。
ただ、諦めてはいません。
ここは、真似することをすすめる話ではありません。掲げた目標に合わせて、制度の形も決まるという話です。1店舗で長くやると決めているなら、8段は要りません。3段でいいと思います。大事なのは、言っていることと、作ったものが合っているかどうかです。
等級表を見ていただくと、昇格の条件が「3ヶ月平均で技術売上◯万円以上」になっています。
単月ではありません。
3ヶ月は見ないと、その人の実力が見えないからです。
まつげサロンには繁忙期と閑散期があります。
忙しい月の数字だけを見て上げると、次の月に本人が苦しみます。
これは、上げる側の都合ではなく上がる人のための条件です。
単月で上げると、こうなります。繁忙期に条件を満たして昇格する。基本給が上がる。翌月は閑散期で売上が落ちる。本人は「上げてもらったのに」と思う。そして下げることはできません。
3ヶ月平均にしておくと、この形になりません。忙しい月と暇な月が両方入るからです。
「下げない」ことは、先に決めておいてください。一度上げた基本給を下げるのは、労働条件の不利益変更にあたります。原則として本人の同意が必要で、簡単にはできません。だから、上げる条件を慎重にする必要があります。具体的な取り扱いは社会保険労務士にご確認ください。
等級表には、売上の基準のほかに「求めるふるまい・行動」の欄があります。
ここは、QSCAという4つの言葉で整理しました。
飲食業でよく使われるQSCに、A(雰囲気)を足した形です。サロンは空気が商品の一部なので、ここを独立させました。
そして、この4つを具体的な行動に落としました。抽象的なままだと、評価できないからです。
(Q)早期デビューに向けて毎日練習する
(S・A)明るく挨拶を毎日実行する
(C)率先して環境整備・掃除をする
(A)いつでも笑声で接する・挨拶する
「笑声(えごえ)」……声で笑う、ということですか。
そうです。まつげの施術中、お客様は目を閉じています。
顔の表情が見えないんです。だから声だけで伝えるしかない。これはまつげサロン特有のところだと思っています。
ここから、お金の設計の話です。
うちの歩合は、技術売上が一定額を超えてから、段階的に率が上がる形にしました。
なぜ、段階を刻んだんですか。一律◯%のほうが分かりやすい気もしますが。
一律だと、売っても売らなくても、率が同じだからです。
それだと「もう少し頑張ろう」という段差がありません。次のラインが見えていると、そこまで行こうと思えます。
ここは、この記事でいちばん書いておきたいところです。
労働分配率から逆算して、歩合のラインを決めました。
あとで確かめ直したら、その計算が間違っていました。
いまは作り直しています。
それは……怖いですね。気づかなかったら、どうなっていたんですか。
払いすぎるか、払わなすぎるか、どちらかです。
払いすぎれば店が持ちません。払わなすぎれば人が辞めます。どちらも、しばらく気づけません。
正直に書くと、気づいたのは、あとからAIに計算し直してもらったときでした。当時の私は、自分の計算を疑っていませんでした。
自分ひとりで作った計算式は、必ず一度、外から検算してください。
税理士さんでも、AIでも、Excelの別の作り方でも構いません。
大事なのは「別の方法でもう一度計算する」ことです。
給与の式は、間違っていても、しばらく普通に動いてしまいます。毎月の給与は計算されて、振り込まれます。おかしいと分かるのは、決算のときか、人が辞めるときです。
そのときには、もう1年たっています。
この記事に、間違っていた式そのものは載せません。直したあとの式も載せません。お店の規模・単価・人数で、正しい数字はまったく変わるからです。載せる意味があるのは、式ではなく「検算する」という手順のほうです。
では、その「払っていい人件費の上限」をどう置いたか。
うちは労働分配率45%以内を基準にしました。
売上総利益(粗利)のうち、人件費がどれだけを占めるか。
うちのシミュレーションでは
売上 − 材料費 = 売上総利益
人件費 ÷ 売上総利益 = 労働分配率
として計算しています。
その45%は、どこから来た数字ですか。
読んだ本に書いてあったことがもとです。
「労働分配率が50%を超えなければ、基本的に赤字にはならない」と。
それを忠実に受け取って、45%に置きました。50%ぎりぎりではなく、少し余裕を持たせた形です。
この数字を先に置いておくと、給与の話がずいぶん楽になります。
「このくらい払ってあげたい」
「でも払いすぎかもしれない」
毎回、気持ちで決めることになります。
数字を入れて、45%を超えるかどうかを見る。
超えなければ出せる。超えるなら出せない。それだけです。
45%は、うちが選んだ数字です。業種・立地・家賃・人数で適正は変わりますし、材料費に何を入れるかでも数字は動きます。そのまま使わないでください。自分の店の数字で計算して、税理士さんに一度見てもらってください。私は税理士ではありません。
Excelで、給与のシミュレーションを作りました。同じものを2つです。
違いは労働分配率が出るかどうかです。
なぜ、分けたんですか。
労働分配率は、スタッフが見る数字ではないからです。
「あなたの人件費は、粗利の43%です」と見せても、うれしくありません。それは経営の側の言葉です。
スタッフに見せるのは「これだけ売ったら、これだけになります」だけでいい。同じ式から、見せる面を変えているだけです。
正直に書くと、このシミュレーションは、まだスタッフに見せていません。作ったまま、手元にあります。
その話を、次に書きます。
ここまで、等級・歩合・労働分配率・評価シートと書いてきました。
全部、作ってあります。そして、動いていません。
等級シート 作った。運用していない
評価シート 作った。運用していない
改善チェックシート 作った。運用していない
給与シミュレーション 作った。スタッフには見せていない
……ここまで作って、動いていないんですか。
動いていません。ここは、隠さずに書きます。
親記事に「評価制度は1〜2名の段階ではまだ運用できない。人が増えてからで間に合う」と書きました。
あれを書いた本人が、作って、実際に動かせていません。
これは、私の主張の反証ではなく裏付けだと思っています。
制度は、人数がいて初めて動きます。評価は「誰かと比べる」「前回と比べる」で意味が出るものです。1〜2名で、しかも開けたばかりだと、比べる相手も、前回もありません。だから動かないのは当たり前でした。
「後でいい」と言いながら作った。そこには理由があります。
2番は、少し説明します。
評価は、点をつけるための道具ではありません。
「何をすれば認められるのか」を、先に見せておく道具です。
だから、動かす前でも、作っておく意味はありました。
実際、求人の場面ではもう使っていました。応募者に見せた資料の中に、キャリアと給与のページがあります。あれは、この等級表がなければ作れませんでした。
制度は、運用の前に「見せるもの」として先に働きます。
最後に、いまの話を書きます。
次に社員さんが入ったら、この制度をそのまま使うんですか。
全部直します。
開けてから1年4ヶ月たって、あの当時とは全然違うんです。
直す理由は、3つあります。
給与テーブルは、作って終わりではありません。
最低賃金は毎年変わります。作った瞬間から、古くなりはじめます。
だから、完璧なものを作ろうとして止まるより、いまの数字で1回作るほうがいいです。
開業前の私は、これを完成品のつもりで作っていました。いま見ると、途中のものでした。それでよかったと思っています。途中のものがあったから、直せます。何もなければ、また最初から考えることになっていました。
開業前に、給与はいくらに設定すればいいですか?
金額より先に、決まり方を決めてください。下限は相場でほぼ決まります(うちが調べた範囲では22万〜26万に固まっていました)。差がつくのは上限で、そこは歩合の設計で決まります。「いくら売ったらいくらになるか」を式にしておくと、求人票にも書けます。
労働分配率は、何%を目安にすればいいですか?
うちは45%以内を基準にしました。読んだ本に「50%を超えなければ基本的に赤字にならない」とあったので、少し余裕を持たせた形です。ただし、そのまま使わないでください。業種・家賃・人数・材料費の入れ方で適正は変わります。自分の店の数字で計算して、税理士さんに見てもらってください。
歩合は、一律の%ではだめですか?
だめではありません。うちが段階にしたのは「次のラインが見えていると、そこまで行こうと思える」からです。一律だと、売っても売らなくても率が同じで、段差がありません。どちらが正しいというより、何を伝えたいかで決めてください。
等級は、いくつ作ればいいですか?
掲げた目標に合わせてください。うちは「5年で10億」と言ったので8段作りました。1店舗で長くやると決めているなら3段で十分だと思います。言っていることと、作ったものが合っているかどうかが大事です。
昇格の条件は、単月の売上ではだめですか?
うちは3ヶ月平均にしました。繁忙期と閑散期があるからです。単月で上げると、繁忙期に昇格して、閑散期に本人が苦しみます。そして、一度上げた基本給は簡単に下げられません。上げる条件は慎重にしてください。
シミュレーションは、スタッフに見せるべきですか?
見せるなら労働分配率は外してください。あれは経営の側の数字です。スタッフに見せるのは「これだけ売ったら、これだけになります」だけで足ります。うちは同じ式で2つ作って、出す数字を変えています。
計算は、誰かに見てもらったほうがいいですか?
必ず見てもらってください。私は自分の計算を疑っていませんでしたが、あとで確かめたら間違っていました。給与の式は、間違っていても毎月普通に動いてしまいます。気づくのは決算のときか、人が辞めるときです。そのときには1年たっています。
評価制度は、開業前に作るべきですか?
運用は、人が増えてからで間に合います。実際うちは作って、いまも動かせていません。ただ作っておく意味はありました。求人資料のキャリアのページも、給与の計算例も、これがないと書けなかったからです。制度は、運用の前に「見せるもの」として働きます。
最低賃金が上がると、何が変わりますか?
基本給の設計に影響します。最低賃金は毎年見直されるので、給与テーブルは作った瞬間から古くなりはじめます。うちも作り直しているところです。完璧なものを作ろうとして止まるより、いまの数字で1回作って、毎年見直すほうが現実的です。
1. 開業前に決めるのは金額ではなく、決まり方
2. 順番は労働分配率 → 歩合 → 等級。払える上限から逆算する
3. 下限は相場で決まる。差がつくのは上限
4. 等級の数は掲げた目標に合わせる。1店舗なら3段でいい
5. 昇格は3ヶ月平均。繁忙期の数字で上げない
6. 一度上げた基本給は、簡単には下げられない
7. 自分で作った計算式は、必ず外から検算する。私は間違えていました
8. 給与の式は間違っていても普通に動く。気づくのは1年後
9. シミュレーションはスタッフ用と経営者用で、出す数字を変える
10. 給与テーブルは作って終わりではない。最低賃金は毎年変わる
作って、間違えて、直しているところなんですね。
そうです。そして、それでいいと思っています。
完璧な給与制度を作ってから開業した人を、私は見たことがありません。途中のものを作って、走りながら直す。それが実際のところです。
次は、面接の30分をどう設計したかを書きます。ここも、AIと壁打ちして作りました。
この記事は、私自身が2024年から2025年にかけて恵比寿で1店舗を開業したときに作成した等級表・給与シミュレーション・評価シートをもとに書いています。掲載している求人票の金額は、当時実際に掲載していたものです。等級表の基本給・モデル年収は掲載していません。また、等級表はホットペッパービューティーアカデミーが配布していた資料をもとに当社向けに作成したもので、現在は見直しを進めています。労働分配率45%は当社が置いた基準であり、適正値は業種・規模・地域によって異なります。賃金の決定・変更、割増賃金の計算、最低賃金の取り扱い、評価制度の設計については、税理士・社会保険労務士にご相談ください。私は税理士でも社会保険労務士でもありません。
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