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給与は「いくら」ではなく
「どう決まるか」を先に決める

等級・歩合・労働分配率。開業前に作った仕組みを、そのまま出します。
そして、私が一度やった計算間違いも書きます。

↑ この記事の親まつげサロンの求人|何もない状態で、何を見せるか
アイリストさん

スタッフの給与って、いくらにすればいいんでしょうか。

相場を調べても、22万から26万くらいで、みんな同じで……。

阿部

そこは、たしかに同じになります。下限は相場で決まるからです。

開業前に決めるのは金額ではありません。決まり方です。

決まり方、というと?

いくら売ったら、いくらになるのか。それを式にしておくということです。

前の記事で、求人票に計算例を書いたと言いました。あれが書けたのは、先に式を作ってあったからです。

そして先に言っておきます。私はその式を、一度間違えていました。

この記事の結論

1. 開業前に決めるのは金額ではなく、決まり方

2. 労働分配率を先に置くと、歩合のラインが逆算できる

3. 作った制度は、動かないことがあります。うちがそうでした

この記事の内容

  1. 決めるのは金額ではなく、決まり方
  2. 等級を、8段つくりました
  3. 1〜2名なのに、なぜ8段も作ったのか
  4. 昇格の条件を「3ヶ月平均」にした理由
  5. 数字だけでは決めない ── QSCA
  6. 歩合のラインは、逆算で決めた
  7. そして、その計算は間違っていました
  8. 労働分配率45%という線
  9. シミュレーションを、2つ作った
  10. 正直に書きます ── この制度は、まだ動いていません
  11. では、なぜ作ったのか
  12. 1年4ヶ月たって、全部作り直します
  13. よくある質問
  14. まとめ

決めるのは金額ではなく、決まり方

前の記事で、同じエリアの求人を並べた話を書きました。そこで分かったことを、もう一度出します。

給与の下限

22万円〜26万円に固まっていました。

ここは相場です。動かせません。

給与の上限

40万円〜63万円までばらついていました。

ここは、その店の設計です。

下限で差はつきません。差がつくのは上限のほうです。そして上限は、歩合の設計で決まります。

うちが求人票に載せたのは、この形でした。

実際に掲載した内容(抜粋)

月給 25.0万円〜40.0万円

<技術売上600,000円の場合> 支給額261,530円
<技術売上700,000円の場合> 支給額277,530円
内訳(基本給+技術歩合+残業代)

この2行を書くために、先に必要だったものがあります。

順番は3 → 2 → 1です。先に「いくらまで払えるか」を決めて、そこから歩合を逆算しました。

等級を、8段つくりました

まず、等級表をそのまま出します。金額は載せていません。売上の基準だけです。

Jr.アイリストから取締役コースまで8段の等級表。各段の昇格条件として技術売上の基準が並んでいる
うちの等級表です。基本給とモデル年収の列は外してあります。ここは社内の数字なので出しません。

この表は、ゼロから作ったものではありません。ホットペッパービューティーアカデミーが配布していた資料をもとに、うちの形に直しました。そして、いま見ると未完成です。そのあたりも、この記事の後半で正直に書きます。

1〜2名なのに、なぜ8段も作ったのか

ここは、聞かれると思っていました。

開業のとき、社員は1〜2名ですよね。マネージャーも取締役も、当分いないのでは……。

いません。いまもいません。

それでも8段作ったのは、起業したときに「5年で10億」と掲げたからです。

求人票にも、そう書きました。ビジョンの欄です。

求人票に載せたビジョン(抜粋)

5年で10億 挑戦・成長し続ける

多店舗展開に挑戦し、毎年成長を続けることで、より多くのお客様・スタッフを幸せにします。
まつ毛業界の職業地位を向上させ、業界全体を活性化させる。

10億と言っておいて、等級が3段しかなかったら、嘘になります。

独立支援(FC加盟)コースと取締役コースを入れたのも同じ理由です。この会社に入ったら、どこまで行けるのか。それを示せないなら、大きいことは言わないほうがいい。

いま、その10億はどうなっていますか。

現実は甘くないと痛感しています。

ただ、諦めてはいません。

ここは、真似することをすすめる話ではありません。掲げた目標に合わせて、制度の形も決まるという話です。1店舗で長くやると決めているなら、8段は要りません。3段でいいと思います。大事なのは、言っていることと、作ったものが合っているかどうかです。

昇格の条件を「3ヶ月平均」にした理由

等級表を見ていただくと、昇格の条件が「3ヶ月平均で技術売上◯万円以上」になっています。

単月ではありません。

なぜ3ヶ月なのか

3ヶ月は見ないと、その人の実力が見えないからです。

まつげサロンには繁忙期と閑散期があります。
忙しい月の数字だけを見て上げると、次の月に本人が苦しみます。

これは、上げる側の都合ではなく上がる人のための条件です。

単月で上げると、こうなります。繁忙期に条件を満たして昇格する。基本給が上がる。翌月は閑散期で売上が落ちる。本人は「上げてもらったのに」と思う。そして下げることはできません。

3ヶ月平均にしておくと、この形になりません。忙しい月と暇な月が両方入るからです。

「下げない」ことは、先に決めておいてください。一度上げた基本給を下げるのは、労働条件の不利益変更にあたります。原則として本人の同意が必要で、簡単にはできません。だから、上げる条件を慎重にする必要があります。具体的な取り扱いは社会保険労務士にご確認ください。

数字だけでは決めない ── QSCA

等級表には、売上の基準のほかに「求めるふるまい・行動」の欄があります。

ここは、QSCAという4つの言葉で整理しました。

4QSCA意味
  • Q(クオリティ) 技術・店販そのものの品質
  • S(サービス) お客様に提供するサービス・接客
  • C(クリンネス) 清潔・環境整備
  • A(アトモスフィア) お店の雰囲気・活気・空気

飲食業でよく使われるQSCに、A(雰囲気)を足した形です。サロンは空気が商品の一部なので、ここを独立させました。

そして、この4つを具体的な行動に落としました。抽象的なままだと、評価できないからです。

実際に書いた行動(Jr.アイリストの例)

(Q)早期デビューに向けて毎日練習する
(S・A)明るく挨拶を毎日実行する
(C)率先して環境整備・掃除をする
(A)いつでも笑声で接する・挨拶する

「笑声(えごえ)」……声で笑う、ということですか。

そうです。まつげの施術中、お客様は目を閉じています。

顔の表情が見えないんです。だから声だけで伝えるしかない。これはまつげサロン特有のところだと思っています。

歩合のラインは、逆算で決めた

ここから、お金の設計の話です。

うちの歩合は、技術売上が一定額を超えてから、段階的に率が上がる形にしました。

なぜ、段階を刻んだんですか。一律◯%のほうが分かりやすい気もしますが。

一律だと、売っても売らなくても、率が同じだからです。

それだと「もう少し頑張ろう」という段差がありません。次のラインが見えていると、そこまで行こうと思えます。

そして、その計算は間違っていました

ここは、この記事でいちばん書いておきたいところです。

起きたこと

労働分配率から逆算して、歩合のラインを決めました。

あとで確かめ直したら、その計算が間違っていました。

いまは作り直しています。

それは……怖いですね。気づかなかったら、どうなっていたんですか。

払いすぎるか、払わなすぎるか、どちらかです。

払いすぎれば店が持ちません。払わなすぎれば人が辞めます。どちらも、しばらく気づけません。

正直に書くと、気づいたのは、あとからAIに計算し直してもらったときでした。当時の私は、自分の計算を疑っていませんでした。

ここから学んだこと

自分ひとりで作った計算式は、必ず一度、外から検算してください。

税理士さんでも、AIでも、Excelの別の作り方でも構いません。
大事なのは「別の方法でもう一度計算する」ことです。

給与の式は、間違っていても、しばらく普通に動いてしまいます。毎月の給与は計算されて、振り込まれます。おかしいと分かるのは、決算のときか、人が辞めるときです。

そのときには、もう1年たっています。

この記事に、間違っていた式そのものは載せません。直したあとの式も載せません。お店の規模・単価・人数で、正しい数字はまったく変わるからです。載せる意味があるのは、式ではなく「検算する」という手順のほうです。

労働分配率45%という線

では、その「払っていい人件費の上限」をどう置いたか。

うちは労働分配率45%以内を基準にしました。

労働分配率とは

売上総利益(粗利)のうち、人件費がどれだけを占めるか。

うちのシミュレーションでは
売上 − 材料費 = 売上総利益
人件費 ÷ 売上総利益 = 労働分配率
として計算しています。

その45%は、どこから来た数字ですか。

読んだ本に書いてあったことがもとです。

「労働分配率が50%を超えなければ、基本的に赤字にはならない」と。

それを忠実に受け取って、45%に置きました。50%ぎりぎりではなく、少し余裕を持たせた形です。

この数字を先に置いておくと、給与の話がずいぶん楽になります。

基準がないとき

「このくらい払ってあげたい」
「でも払いすぎかもしれない」

毎回、気持ちで決めることになります。

基準があるとき

数字を入れて、45%を超えるかどうかを見る。

超えなければ出せる。超えるなら出せない。それだけです。

45%は、うちが選んだ数字です。業種・立地・家賃・人数で適正は変わりますし、材料費に何を入れるかでも数字は動きます。そのまま使わないでください。自分の店の数字で計算して、税理士さんに一度見てもらってください。私は税理士ではありません。

→ 原価率と利益の考え方はこちら収支シミュレーション|数字を、どう置いたか

シミュレーションを、2つ作った

Excelで、給与のシミュレーションを作りました。同じものを2つです。

入入れる数字(両方とも同じ)7つ
  • 等級/雇用形態/勤続年数
  • 月間の技術売上
  • 月間の指名件数
  • 月間の店販売上
  • 実際の残業時間
出出てくる数字差
  • スタッフ用 基本給・残業代・歩合・手当・総支給額・賞与・年収の試算
  • 経営者用 上に加えて売上総利益・労働分配率・45%以内かどうかの判定

違いは労働分配率が出るかどうかです。

なぜ、分けたんですか。

労働分配率は、スタッフが見る数字ではないからです。

「あなたの人件費は、粗利の43%です」と見せても、うれしくありません。それは経営の側の言葉です。

スタッフに見せるのは「これだけ売ったら、これだけになります」だけでいい。同じ式から、見せる面を変えているだけです。

正直に書くと、このシミュレーションは、まだスタッフに見せていません。作ったまま、手元にあります。

その話を、次に書きます。

正直に書きます ── この制度は、まだ動いていません

ここまで、等級・歩合・労働分配率・評価シートと書いてきました。

全部、作ってあります。そして、動いていません。

いまの状態

等級シート 作った。運用していない
評価シート 作った。運用していない
改善チェックシート 作った。運用していない
給与シミュレーション 作った。スタッフには見せていない

……ここまで作って、動いていないんですか。

動いていません。ここは、隠さずに書きます。

親記事に「評価制度は1〜2名の段階ではまだ運用できない。人が増えてからで間に合う」と書きました。

あれを書いた本人が、作って、実際に動かせていません。

これは、私の主張の反証ではなく裏付けだと思っています。

制度は、人数がいて初めて動きます。評価は「誰かと比べる」「前回と比べる」で意味が出るものです。1〜2名で、しかも開けたばかりだと、比べる相手も、前回もありません。だから動かないのは当たり前でした。

では、なぜ作ったのか

「後でいい」と言いながら作った。そこには理由があります。

2番は、少し説明します。

評価制度が本当にやっていること

評価は、点をつけるための道具ではありません。

「何をすれば認められるのか」を、先に見せておく道具です。
だから、動かす前でも、作っておく意味はありました。

実際、求人の場面ではもう使っていました。応募者に見せた資料の中に、キャリアと給与のページがあります。あれは、この等級表がなければ作れませんでした。

制度は、運用の前に「見せるもの」として先に働きます。

1年4ヶ月たって、全部作り直します

最後に、いまの話を書きます。

次に社員さんが入ったら、この制度をそのまま使うんですか。

全部直します。

開けてから1年4ヶ月たって、あの当時とは全然違うんです。

直す理由は、3つあります。

3作り直す理由中身
  • 計算が間違っていた 歩合のラインです。前の項に書きました
  • 最低賃金が上がる 毎年変わります。基本給の設計は、そのたびに影響を受けます
  • 店の実態が変わった 客層も、単価も、動き方も、開業前に想定したものとは違っています
ここが、この記事でいちばん伝えたいことです

給与テーブルは、作って終わりではありません。

最低賃金は毎年変わります。作った瞬間から、古くなりはじめます。
だから、完璧なものを作ろうとして止まるより、いまの数字で1回作るほうがいいです。

開業前の私は、これを完成品のつもりで作っていました。いま見ると、途中のものでした。それでよかったと思っています。途中のものがあったから、直せます。何もなければ、また最初から考えることになっていました。

よくある質問

開業前に、給与はいくらに設定すればいいですか?

金額より先に、決まり方を決めてください。下限は相場でほぼ決まります(うちが調べた範囲では22万〜26万に固まっていました)。差がつくのは上限で、そこは歩合の設計で決まります。「いくら売ったらいくらになるか」を式にしておくと、求人票にも書けます。

労働分配率は、何%を目安にすればいいですか?

うちは45%以内を基準にしました。読んだ本に「50%を超えなければ基本的に赤字にならない」とあったので、少し余裕を持たせた形です。ただし、そのまま使わないでください。業種・家賃・人数・材料費の入れ方で適正は変わります。自分の店の数字で計算して、税理士さんに見てもらってください。

歩合は、一律の%ではだめですか?

だめではありません。うちが段階にしたのは「次のラインが見えていると、そこまで行こうと思える」からです。一律だと、売っても売らなくても率が同じで、段差がありません。どちらが正しいというより、何を伝えたいかで決めてください。

等級は、いくつ作ればいいですか?

掲げた目標に合わせてください。うちは「5年で10億」と言ったので8段作りました。1店舗で長くやると決めているなら3段で十分だと思います。言っていることと、作ったものが合っているかどうかが大事です。

昇格の条件は、単月の売上ではだめですか?

うちは3ヶ月平均にしました。繁忙期と閑散期があるからです。単月で上げると、繁忙期に昇格して、閑散期に本人が苦しみます。そして、一度上げた基本給は簡単に下げられません。上げる条件は慎重にしてください。

シミュレーションは、スタッフに見せるべきですか?

見せるなら労働分配率は外してください。あれは経営の側の数字です。スタッフに見せるのは「これだけ売ったら、これだけになります」だけで足ります。うちは同じ式で2つ作って、出す数字を変えています。

計算は、誰かに見てもらったほうがいいですか?

必ず見てもらってください。私は自分の計算を疑っていませんでしたが、あとで確かめたら間違っていました。給与の式は、間違っていても毎月普通に動いてしまいます。気づくのは決算のときか、人が辞めるときです。そのときには1年たっています。

評価制度は、開業前に作るべきですか?

運用は、人が増えてからで間に合います。実際うちは作って、いまも動かせていません。ただ作っておく意味はありました。求人資料のキャリアのページも、給与の計算例も、これがないと書けなかったからです。制度は、運用の前に「見せるもの」として働きます。

最低賃金が上がると、何が変わりますか?

基本給の設計に影響します。最低賃金は毎年見直されるので、給与テーブルは作った瞬間から古くなりはじめます。うちも作り直しているところです。完璧なものを作ろうとして止まるより、いまの数字で1回作って、毎年見直すほうが現実的です。

まとめ

持ち帰ってほしいこと

1. 開業前に決めるのは金額ではなく、決まり方

2. 順番は労働分配率 → 歩合 → 等級。払える上限から逆算する

3. 下限は相場で決まる。差がつくのは上限

4. 等級の数は掲げた目標に合わせる。1店舗なら3段でいい

5. 昇格は3ヶ月平均。繁忙期の数字で上げない

6. 一度上げた基本給は、簡単には下げられない

7. 自分で作った計算式は、必ず外から検算する。私は間違えていました

8. 給与の式は間違っていても普通に動く。気づくのは1年後

9. シミュレーションはスタッフ用と経営者用で、出す数字を変える

10. 給与テーブルは作って終わりではない。最低賃金は毎年変わる

作って、間違えて、直しているところなんですね。

そうです。そして、それでいいと思っています。

完璧な給与制度を作ってから開業した人を、私は見たことがありません。途中のものを作って、走りながら直す。それが実際のところです。

次は、面接の30分をどう設計したかを書きます。ここも、AIと壁打ちして作りました。

↑ この記事の親にもどるまつげサロンの求人|何もない状態で、何を見せるか

この記事は、私自身が2024年から2025年にかけて恵比寿で1店舗を開業したときに作成した等級表・給与シミュレーション・評価シートをもとに書いています。掲載している求人票の金額は、当時実際に掲載していたものです。等級表の基本給・モデル年収は掲載していません。また、等級表はホットペッパービューティーアカデミーが配布していた資料をもとに当社向けに作成したもので、現在は見直しを進めています。労働分配率45%は当社が置いた基準であり、適正値は業種・規模・地域によって異なります。賃金の決定・変更、割増賃金の計算、最低賃金の取り扱い、評価制度の設計については、税理士・社会保険労務士にご相談ください。私は税理士でも社会保険労務士でもありません。

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阿部弘康

阿部 弘康

株式会社CALM TOKYO 代表取締役
恵比寿でまつげパーマ&眉毛アイブロウサロンを運営

美容業界18年。化粧品メーカーの営業、美容サロン専門の広告会社を経て、サロン専門のコンサルタントとして独立しました。集客に関する書籍を2冊出しています。
2025年、恵比寿に自分たちの店を開きました。技術は、表参道で17年やってきたアイリストの妻が。経営とマーケティングは私が見ています。人の店を見てきた側と、自分で開いた側。その両方から書いています。

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